特許関係一覧 ― 特許(EVAPOS)

【発行国】 日本国特許庁(JP)
【特許番号】 特許第3843297号(P3843297)
【出願番号】 特願2000-101090(P2000-101090)
【登録日】 平成18年8月25日(2006.8.25)
【請求項の数】
【全頁数】 13
【発明の名称】 速乾性編地及び速乾性編物製品
【国際特許分類】 D04B 1/14 (2006.01)
A41B 9/00 (2006.01)
A41B 17/00 (2006.01)
【FI】 D04B 1/14
A41B 9/00 Z
A41B 17/00 Z

【特許請求の範囲】

【請求項1】

吸湿性に優れた天然繊維からなる吸湿性繊維糸と、非吸湿性の合成繊維で構成されたマルチフィラメントからなる非吸湿性マルチフィラメント糸との2種類の編糸が用いられ、前記吸湿性繊維糸を表側に、前記非吸湿性マルチフィラメント糸を裏側に配置して、編目のループが表側に突出して形成した表側部と編目のループが裏側に突出して形成した裏側部との両層を備えた表裏2層構造に編成された編地、または上記2種類2本の編糸で2重に編成された編地からなり、前記非吸湿性マルチフィラメント糸が、断面形状が複数種類の異形断面フィラメントのみからなるより糸で構成され、前記異形断面フィラメントは、外周面にフィラメント長手方向の溝を有しないものであることを特徴とする速乾性編地。

【請求項2】

前記吸湿性繊維糸として綿糸が用いられ、前記非吸湿性マルチフィラメント糸としてポリエステルマルチフィラメント糸が用いられた請求項1に記載の速乾性編地。

【請求項3】

前記編地が、フライス編地からなる請求項1または2に記載の速乾性編地。

【請求項4】

前記編地が、2重天竺編地からなる請求項1または2に記載の速乾性編地。

【請求項5】

前記非吸湿性マルチフィラメント糸の繊度が50~200デニールである請求項1~4のいずれか1項に記載の速乾性編地。

【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】

この発明は、例えばシャツ、パンツ等の肌着(下着)、Tシャツ、ポロシャツ、運動着、靴下、手袋、靴の中敷き、靴の内張材、帽子、帽材、タオル、ハンカチ、介護衣料品などの生地として用いられる速乾性編地及びこれを用いた速乾性編物製品に関する。

【0002】

【従来の技術】

例えばシャツ、パンツ等の肌着や靴下などにおいては、汗などをかいて濡れるとべたつき感等があって非常に不快であるし、気化熱が奪われることによって体が冷えるというような問題があることから、従来より乾燥性の良いものであることが要請されている。

【0003】

このような乾燥性を考慮したものとして、中空フィラメントを用いた100%ポリエステル糸の単層で構成された編地が挙げられる。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の編地においては、中空フィラメントの性格上針穴がでやすく強度の弱い生地になるという問題があった。
【0005】

更に、運動の初期段階での発汗等のように発汗量が少ない状態ではある程度対応できるものの、発汗量が多くなると生地の有する蒸散能力を超えてしまい生地において水分保持ができなくなり、肌に水分が戻ってしまってべたつき感等により不快な状態になるという問題があった。

【0006】

この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、針穴ができにくく腰のある強い生地であると共に、汗をかくこと等によって水分が付着しても、少なくとも肌と接する側を極めて短時間で乾燥状態となすことができて、水分によるべたつき感、気化熱が奪われることによる冷え感などの不快感を解消することができ、かつ外への蒸散性に優れて生地全体としての乾燥性にも優れた速乾性編地及び速乾性編物製品を提供することを目的とする。
【0007】

【課題を解決するための手段】

上記目的を達成するために、本発明者は鋭意研究の結果、吸湿性繊維糸を表側に配置し、非吸湿性マルチフィラメント糸を裏側に配置して表裏2層ないし2重に編成された編地構成とし、かつ前記マルチフィラメント糸として、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含むより糸で構成されたマルチフィラメント糸を用いることによって、上記所望の速乾性編地が得られ、該速乾性編地をその生地として用いれば上記所望の速乾性編物製品が得られることを見出すに至り、この発明を完成した。

【0008】

即ち、この発明に係る速乾性編地は、吸湿性に優れた天然繊維からなる吸湿性繊維糸と、非吸湿性の合成繊維で構成されたマルチフィラメントからなる非吸湿性マルチフィラメント糸との2種類の編糸が用いられ、前記吸湿性繊維糸を表側に、前記非吸湿性マルチフィラメント糸を裏側に配置して、編目のループが表側に突出して形成した表側部と編目のループが裏側に突出して形成した裏側部との両層を備えた表裏2層構造に編成された編地、または上記2種類2本の編糸で2重に編成された編地からなり、前記非吸湿性マルチフィラメント糸が、断面形状が複数種類の異形断面フィラメントのみからなるより糸で構成され、前記異形断面フィラメントは、外周面にフィラメント長手方向の溝を有しないものであることを特徴とする。

【0009】

構成糸として吸湿性繊維糸と、非中空の非吸湿性マルチフィラメント糸が用いられた2層構造ないし2重構造であるから、針穴ができにくくて腰のある強い生地が得られる。

【0010】

肌などの人体と接触する側である裏側を構成する糸として、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含むより糸で構成された非吸湿性マルチフィラメント糸が用いられており、汗などの水分が編地(裏側編地等)に付着すると、この付着水分は前記異形断面フィラメント間の空隙内に入り込み、その毛細管現象によって吸い込まれるのであるが、その吸水速度は、均質な円形断面を有したフィラメントで構成されたマルチフィラメント糸又は均一な単一の異形断面を有したフィラメントで構成されたマルチフィラメント糸と比較して格段に向上されるものとなる。このように吸水速度に優れるのは、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含んで構成されることで、これら異形断面フィラメント間に十分な空隙が確保されるものとなることに拠ると考えられるが、このような空隙率の寄与だけでは説明できない程顕著な吸水力の向上が図られるものである。

【0011】

一方、編地の表側(編地表側部)は吸湿性に優れた天然繊維からなる吸湿性繊維糸で構成されているので、前記裏側を構成するマルチフィラメント糸に吸い込まれた水分は、この編地裏側部から編地表側部に積極的に移行される。この時、編地の裏側を構成する糸が疎水性を呈して吸湿性が低いものであってそもそも水分保持力に乏しいものであるのに対し、編地の表側を構成する糸が吸湿性に優れているので、前記裏側部から表側部への水の移行はより一層促進されるものとなる。このように水分が表側部に積極的に移行されることによって、肌と接する裏側が極めて短時間で乾燥状態となされるので、水分によるべたつき感、気化熱が奪われることによる冷え感等の不快感が解消される速乾性の編地となし得る。

【0012】

更に、上記特定構成に係る非吸湿性マルチフィラメント糸により生地としての吸水速度が顕著に向上される上に、裏側部から表側部への水分移行性に非常に優れたものであることから、裏側部に積極的に吸い込まれた水分は、極めて短時間で表側部に放出移行され、生地における吸収水分は吸収直後を除き基本的に殆ど表側部に存在する状態となるので、外への蒸散性にも非常に優れており、ひいては生地そのもの(生地全体)の乾燥性にも非常に優れたものとなる。即ち、生地全体としても乾燥するのが格段に早いものとなる。

【0013】

加えて、編地裏側部は吸水拡散性にも優れており、大きく濡れ面積を拡げて吸収し、この拡散状態で表側部へ水分を移行させて、表側部においても更に大きく濡れ面積を拡げた状態で水分が存在するものとなるので、即ち蒸発面積が大きくなるので、外への蒸散性がより一層向上される。

【0014】

この発明の編地が、編地の裏側を構成する糸として、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含むより糸で構成された非吸湿性マルチフィラメント糸を用いることによって、編地の吸水速度及び裏側部から表側部への水の移行速度並びに表側部の吸水能力が顕著に向上されるものであることは後に示す実施例と比較例との対比からも明らかである。

【0015】

更に、異形断面フィラメントは外周面に溝を有しない断面形状を呈するものであるので、裏側部から表側部への水分移行性を一層向上させることができると共に編地の強度も一層向上させることができる。
【0016】
上記吸湿性繊維糸として綿糸が用いられ、非吸湿性マルチフィラメント糸としてポリエステルマルチフィラメント糸が用いられるのが好ましい。綿糸は吸湿性天然繊維の中でも特に吸湿性に優れる一方、ポリエステルは非吸湿性の合成繊維の中でも特に疎水性が強く吸湿性が非常に低くて水分保持力が非常に低いものとなるので、前記水分移行性及び蒸散性が一段と向上される。
【0017】
前記編地は、2層構造のフライス編地又は2重天竺編地からなるのが好ましい。表側を構成する吸湿性繊維糸と裏側を構成する非吸湿性マルチフィラメント糸とが編地の至るところで接触する態様で編成されているので、即ち表側の構成糸が裏側の構成糸によってその裏側と側面側を取り囲まれた態様で編成されているので、前記裏側部から表側部への水の移行がより一層促進され、一層短時間で肌と接する裏側を乾燥状態とならしめることが可能となる。
【0018】
中でも、編地は2層構造のフライス編地からなるのが、肌と接する側をより一層短時間で乾燥状態となし得る点および蒸散性を一層向上できる点で、好ましい。
【0019】
非吸湿性マルチフィラメント糸における断面の空隙率は30~75%の範囲であるのが、編地としての強度を低下させることなく、マルチフィラメント糸の吸水力を一層向上できる点で、好ましい。
【0020】
吸湿性繊維糸は18~60番単糸相当の繊度を有し、非吸湿性マルチフィラメント糸の繊度は50~200デニールであるのが好ましい。これにより、強度を十分に確保しつつ、一層肌触り、風合いに優れた編地を得ることができる。
【0021】
この発明の速乾性編物製品は、上記いずれかの構成に係る速乾性編地を用いて製作されたものであるから、汗をかくこと等によって水分が付着しても、少なくとも肌と接する側を極めて短時間で乾燥状態となすことができて、水分によるべたつき感、気化熱が奪われることによる冷え感などの不快感を解消することができる高品質の編物製品となし得る。更に、蒸散性に優れているので、生地全体としての乾燥性も非常に優れている。
【0022】
【発明の実施の形態】
この発明の一実施形態に係る速乾性編地を図1に示す。この速乾性編地(1)はフライス編機によって編成された2層構造のフライス編地であって、表側編地(2)と裏側編地(3)とを備え、表側編地(2)を構成する糸として綿糸が用いられる一方、裏側編地(3)を構成する糸として、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含むより糸で構成されたポリエステルマルチフィラメント糸(10)が用いられてなるものである。
【0023】
図1(ロ)に示すように、表側編地(2)のループ(2a)…は図面下方向に突出して表側部(7)が形成される一方、裏側編地(3)のループ(3a)…は図面上方向に突出して裏側部(8)が形成され、このように1枚の編成地において表側部(7)と裏側部(8)の両層を備えた構成となされている。そして、表側編地のループ(2a)と裏側編地のループ(3a)とは、1ウェール毎に交互に配置されるものとなされている。
【0024】
前記裏側編地(3)を構成するポリエステルマルチフィラメント糸(10)は、図3に示されるように、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントのより糸で構成されたポリエステルマルチフィラメント糸であり、各異形断面フィラメントはその外周面に溝を有しない断面形状を有するフィラメントであって、かつ円形断面を有したフィラメントを含まない構成である。
【0025】
上記構成に係る編地(1)においては、肌などの人体と接触する側である裏側編地(3)からなる裏側部(8)に汗等の水分が付着すると、この付着水分は前記異形断面フィラメント間の空隙内に入り込み、その毛細管現象によって吸い込まれるのであるが、その吸水速度は、前記ポリエステルマルチフィラメント糸(10)が相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントのより糸で構成されたものであることによって、格段に向上される。即ち、その吸水速度は、均一な単一の異形断面を有したフィラメントで構成されたマルチフィラメント糸又は均質な円形断面を有したフィラメントで構成されたマルチフィラメント糸と比較して格段に向上されるものとなる(後に示す実施例と比較例との対比からも明らかである)。このように吸水速度に優れているのは、糸(10)が相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントのより糸で構成されることで、これら異形断面フィラメント間に十分な空隙が確保されることによると考えられるが、このような空隙率の寄与だけでは説明できない程顕著な吸水力の向上が認められるものである。
【0026】
一方表側編地(2)からなる表側部(7)は吸湿性に優れた綿素材で構成されているので、前記裏側編地(3)を構成するマルチフィラメント糸(10)に吸い込まれた水分は、この裏側編地(3)からなる裏側部(8)から前記表側部(7)に積極的に放出移行される。この時、裏側編地(3)を構成する糸の素材がポリエステルであり強い疎水性を呈して吸湿性が非常に低くそもそも水分保持力が非常に低いものであるのに対し、表側編地(2)を構成する糸が吸湿性に非常に優れた綿糸であるので、前記裏側部(8)から表側部(7)への水の移行はより一層促進される。このように、非常に大きな吸水速度で裏側部(8)に吸収された水分は表側部(7)に積極的に放出移行されるので、肌と接する裏側編地(3)が極めて短時間で乾燥状態となされ、ひいては汗等の水分によるべたつき感、気化熱が奪われることによる冷え感等の不快感のない速乾性の編地(1)となし得る。
【0027】
更に、上記特定構成に係るポリエステルマルチフィラメント糸(10)により生地としての吸水速度が顕著に向上される上に、裏側部(8)から表側部(7)への水分移行性に非常に優れたものであることから、裏側部(8)に積極的に吸い込まれた水分は、極めて短時間で表側部(7)に放出移行され、編地(1)における吸収水分は吸収直後を除き基本的に殆ど表側部(7)に存在する状態となるので、外への蒸散性にも非常に優れており、ひいては編地(1)全体としての乾燥性にも非常に優れたものとなる。
【0028】
しかも、裏側編地(3)からなる裏側部(8)は吸水拡散性にも優れており、濡れ面積を大きく拡げて吸収し、この拡散状態で表側部(7)へ水分を移行させて、該表側部(7)においても更に大きく濡れ面積を拡げた状態で水分が存在するものとなるので、外への蒸散性を一層向上させることができる。
【0029】
上記実施形態においては、表側編地(2)を構成する糸として綿糸を用いたが、これ以外にも吸湿性に優れた天然繊維からなる吸湿性繊維糸であればどのようなものでも用いることができ、例えば麻糸、絹糸、羊毛糸などが挙げられる。また、裏側編地(3)を構成する糸として、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含むより糸で構成されたポリエステルマルチフィラメント糸を用いたが、これ以外にも、非吸湿性の合成繊維で構成された、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含むより糸で構成されたマルチフィラメント糸であればどのようなものでも用いることができる。前記非吸湿性の合成繊維の素材としては、上記ポリエステル以外に例えばポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0030】
前記マルチフィラメント糸(10)を構成する異形断面フィラメントとしては、外周面に溝を有しない断面形状を呈するものを用いる。外周面に溝を有した異形断面フィラメント(例えば断面形状が星形のもの等)ではこの溝による空隙部分における水分保持力が増大することによって前記裏側部(8)から表側部(7)への水分移行性が低下するし、糸の強度も低下する。
【0031】
更に、マルチフィラメント糸(10)における断面の空隙率は30~75%の範囲であるのが好ましい。30%未満ではマルチフィラメント糸(10)の吸水力が低下し、人体と接触する側である裏側部(8)において十分な速乾性を確保することが困難となるので好ましくないし、一方75%を超えると編地としての強度が低下するので好ましくない。中でも、前記空隙率は45~70%の範囲に設定されるのがより好ましい。
【0032】
なお、前記空隙率とは、マルチフィラメント糸(10)の断面を電子顕微鏡写真にとり(図3参照)、その上に厚さの均一なトレース紙をセットして、各構成フィラメントの輪郭を写しとった後、はさみでフィラメント部分を切り取ってその重量(Z1)を測定し、残りのフィラメント間の空隙部分の重量(Z2)を測定し、次式で求められる値である。
【0033】
空隙率(%)=100×Z2/(Z1+Z2)
【0034】
この発明において、編地としては、上記2層構造のフライス編地による構成のものに特に限定されるものではなく、例えば図2に示すような2重天竺編地による構成のものであっても良い。この2重天竺編は、天竺編を2本の糸で編み、一方を表側に他方を裏側に配置させる編み方である。即ち、図2に示す実施形態では、天竺編を2本の糸(綿糸、ポリエステル糸)で編み、綿糸で表側(2)を構成する一方、ポリエステルマルチフィラメント糸(10)で裏側(3)を構成したものである。
【0035】
この発明の速乾性編地は、上記例示の2層構造のフライス編地または2重天竺編地からなるものに特に限定されるものではないが、これら2層構造のフライス編地または2重天竺編地からなるのが好ましい。これらの編地は、図1、2に示すように、編地の表側(2)を構成する糸が、編地の裏側(3)を構成するマルチフィラメント糸(10)によってその裏側と側面側を取り囲まれた態様で編成されているので、裏側部(8)に吸収された水分を効率良く表側部(7)に放出移行させることができ、ひいては肌と接する裏側(3)を一層短時間で乾燥状態となし得る。
【0036】
更に、編地は2層構造のフライス編地からなるのが特に好適であり、この場合には肌と接する裏側編地(3)側をより一層短時間で乾燥状態となし得ると共に編地(1)の蒸散性を一層向上できる利点がある。
【0038】
この発明において、表側編地(2)を構成する糸としては吸湿性繊維糸を用いるが、この発明の効果を阻害しない範囲であれば、この吸湿性繊維糸に他の異なる糸が混用された構成のものであっても良い。また、裏側編地(3)を構成する糸としては上記特定構成に係るマルチフィラメント糸(10)を用いるが、この発明の効果を阻害しない範囲であれば、この糸(10)に他の異なる素材又は構成の糸が混用されていても良い。
【0039】
この発明において、吸湿性繊維糸の繊度は、特に限定されるものではないが、18~60番単糸相当の繊度とするのが好ましい。即ち、吸湿性繊維糸としては、18~60番単糸又はこれに相当する繊度を有する双糸、三子糸等の糸を用いるのが好ましい。吸湿性繊維糸の太さが上記下限より細くなると編地(1)としての強度が低下するので好ましくないし、一方吸湿性繊維糸の太さが上記上限より太くなると、硬くなり、肌触り、風合いが低下するので好ましくない。
【0040】
また、マルチフィラメント糸(10)の繊度は、50~200デニールとするのが好ましい。50デニール未満では細すぎて強度が弱くなり、また薄すぎて吸水力が低下するので好ましくないし、一方200デニールを超えると肌触り、風合いが低下するので好ましくない。
【0041】
この発明の速乾性編地(1)を用いて、シャツ、パンツ等の肌着(下着)、Tシャツ、ポロシャツ、運動着、靴下、手袋、靴の中敷き、靴の内張材、帽子、帽材、タオル、ハンカチ、介護衣料品等の編物製品を縫製などによって製作すれば、汗をかくこと等によって水分が付着しても、少なくとも肌と接する側を極めて短時間で乾燥状態となすことができて、水分によるべたつき感、気化熱が奪われることによる冷え感などの不快感を解消することのできる速乾性の編物製品を提供することができる。この発明の速乾性編地(1)は、速乾性に非常に優れるものであることから、速乾性であることが特に強く求められるシャツ、パンツ等の肌着(下着)、Tシャツ、ポロシャツ、運動着の生地として特に好適である。
【0042】
【実施例】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0043】
<実施例1>
図1に示す編組織(2層構造のフライス編み)により下記仕様による速乾性編地を編成した。
【0044】
編機:フライス編機
綿側のウェール密度:29.8本/インチ
綿側のコース密度:46本/インチ
ポリエステル側のウェール密度:29.8本/インチ
ポリエステル側のコース密度:45.7本/インチ
表側編地を構成する編糸:綿40番コーマ糸
裏側編地を構成する編糸:相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメント(図3参照)(48本)で構成された、75デニールのポリエステルマルチフィラメント糸。このマルチフィラメント糸における各異形断面フィラメントはその外周面に溝を有しない断面形状を呈するものであり、かつ円形断面のフィラメントを含まない構成であり、該マルチフィラメント糸の断面の空隙率は65.1%であった。
【0045】
<比較例1>
裏側編地を構成する編糸として、均質な円形断面を有したフィラメント(36本)で構成された、75デニールのポリエステル糸を用いた以外は、実施例1と同様にして編地を編成した。
【0046】
<比較例2>
下記仕様による天竺編組織からなる編地を編成した。
【0047】
ウェール密度:30.2本/インチ
コース密度:41.3本/インチ
編糸:綿30番単糸
【0048】
上記のようにして編成された各編地に対して、下記試験法により評価を行った。
【0049】
<吸水性試験法>(吸水速度の評価法)
JIS L1907の5.1.2のバイレック法に準拠して各編地の吸水速度を評価した。このバイレック法は、鉛直につるした試験片の下端を水中に浸し、一定時間放置したのち、上昇した水の高さ(mm)で吸水速度を表すものである。
【0050】
<水分移行性試験法(A法)>
水溶性染料を溶解させた水溶液を、各編地の表面に同時に1滴づつ滴下する(実施例1、比較例1の編地は裏側編地側の表面を上にして該裏側編地側に滴下する)。滴下後5分経過してから、各編地の表面を観察し、着色の程度を相対比較する。滴下した裏側編地側から表側編地側への水分移行性に優れるもの程、該裏側編地側の着色の程度がより弱くなる。
【0051】
<水分移行性試験法(B法)>
編地を水中に1分間浸漬した後これを取り出し、手で絞って水分を切った後、編地の表面(実施例1、比較例1では裏側編地側の表面)を手で触り、濡れた感じが全くなくさらっとした感じを呈するものを「◎」、濡れた感じが殆ど感じられないものを「○」、少し濡れた感じがあるものを「△」、濡れておりべたつき感、冷感のあるものを「×」として示した。
【0052】
<蒸散性試験法>
試料(編地)と時計皿の重量を測定し(W)、時計皿に約1mlの水を滴下し、その上に試料を綿側を上にして載せ水を吸収させて重量を測定する(W1)。次に、標準状態(20℃、65%RH)の試験室に放置し、指定時間ごとの重量を測定する(W2)。次式によって蒸散率(%)を求める。
【0053】
蒸散率(%)=100×{(W1-W)-(W2-W)}/(W1-W)
<水分保持性の評価法>
JIS L1907の5.2の方法に準拠して各編地の水分保持性(吸水率)を評価した。表中には、ロール絞り機で絞った後の吸水率(%)を示すと共に、水に浸漬後2枚の乾燥ろ紙の間に挟んで余分な水分を取った後の(絞り機で絞る前の)吸水率(%)も併せて示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表から明らかなように、この発明に係る実施例1の編地は、その吸水速度が顕著に向上している上に、表側(綿側)への水分移行性に優れており、肌と接する側を極めて短時間で乾燥状態となすことができることを確認し得た。また、蒸散性試験の結果から、この発明の編地は生地そのもの(生地全体)の乾燥性にも非常に優れていることを確認した(蒸散速度は初期において比較例2の編地と比較して4~5倍程度高い数値を示している)。なお、実施例1の編地は吸水力に優れる一方で、その水分保持力は比較例1、2のそれと比較して低かった。即ち、吸水速度が顕著に向上される一方で該吸収した水分を放出しやすいものであることを確認し得た。
【0057】
これに対して、比較例1、2の編地は、吸水速度が小さい上に表側への水分移行性に劣っており、水分が付着した場合に肌と接する側が短時間では乾燥状態になり得ず、いつまでも濡れておりべたつき感があった。更に、蒸散性が悪く生地全体の乾燥性にも劣っていた。
【0058】
なお、実施例1の吸水速度の結果において、表側編地側の数値の方が裏側編地側の数値よりも大きくなっているが、これは裏側編地側(ポリエステルマルチフィラメント糸)で吸い込んだ水を表側編地側(綿糸)へ積極的に放出移行させているためと推定される。即ち、水分を裏側編地側から表側編地側へ移行させる性能に非常に優れていることを示すものである。これに対し、比較例1では表側(綿側)への水分移行性に劣っているので、表側編地側の数値と裏側編地側の数値はほぼ同程度であった。
【0059】
また、水分移行性試験A法による試験において、実施例1の編地における表側及び裏側の濡れ面積は、比較例1のそれと比較していずれも顕著に大きくなっており、実施例1の編地は吸水拡散性に優れていた。
【0060】
【発明の効果】
この発明の速乾性編地は、腰のある強い生地であると共に、肌などの人体と接触する側である裏側を構成する糸として、相互に断面形状を異にする複数種類の異形断面フィラメントを含むより糸で構成された非吸湿性マルチフィラメント糸が用いられているから、生地としての吸水速度が顕著に向上される。かつ、編地の裏側を構成する糸が疎水性を呈して吸湿性が低いものであって水分保持力に乏しいものであるのに対し、編地の表側を構成する糸が吸湿性に優れているので、裏側部から表側部への水分移行性に非常に優れたものとなる。従って、非常に大きな吸水速度で裏側部に吸収された水分は表側部に積極的に放出移行されるので、肌と接する裏側が極めて短時間で乾燥状態となされ、ひいては汗等の水分によるべたつき感、気化熱が奪われることによる冷え感などの不快感のない速乾性の編地となし得る。また、生地としての吸水量も顕著に向上されるので、激しい運動による夥しい発汗に対しても充分に吸水し、素早く表側部に水分を移行させることができ、このような多量の発汗があってもべたつき感のない快適で清涼感のある状態を保持することができる。
【0061】
更に、編地の裏側部に積極的に吸い込まれた水分は、極めて短時間で表側部に放出移行されて、生地における吸収水分は吸収直後を除き基本的に殆ど表側部に存在する状態となる上に、この編地が吸水拡散性にも優れて表側部において大きく濡れ面積を拡げた状態で水分が存在して蒸発面積が大きくなるので、外への蒸散性にも非常に優れており、従って生地全体としても乾燥するのが格段に早いものとなる。更に、異形断面フィラメントは、外周面に溝を有しない断面形状を呈するので、裏側部から表側部への水分移行性を一層向上させることができると共に編地の強度も一層向上させることができる。
【0062】
吸湿性繊維糸として綿糸が用いられ、非吸湿性マルチフィラメント糸としてポリエステルマルチフィラメント糸が用いられた場合には、水分移行性及び蒸散性を一段と向上させることができ、肌と接する側を一層短時間で乾燥状態となし得ると共に、生地全体の乾燥性も一層向上させることができる。
【0063】
編地が、2層構造のフライス編地又は2重天竺編地からなる場合には、裏側部から表側部への水の移行をより一層促進することができ、肌と接する裏側を乾燥状態とならしめるまでの乾燥時間をより短縮化できる。
【0064】
非吸湿性マルチフィラメント糸における断面の空隙率が30~75%の範囲である場合には、生地強度を十分に維持させつつ吸水力を一層向上させることができる。
【0065】
吸湿性繊維糸が18~60番単糸相当の繊度を有し、非吸湿性マルチフィラメント糸の繊度が50~200デニールである場合には、生地としての強度を十分に確保しつつ、一層肌触り、風合いを向上させることができる。
【0066】
この発明の速乾性編物製品は、上記いずれかの構成に係る速乾性編地を用いて製作されたものであるから、腰のある強度に優れたものとなし得ると共に、汗をかくこと等によって水分が付着しても、少なくとも肌と接する側を極めて短時間で乾燥状態となすことができて、汗等の水分によるべたつき感、気化熱が奪われることによる冷え感などの不快感を解消することができ、かつ優れた蒸散性を有しているので生地全体としての乾燥性にも非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態に係る速乾性編地を示す図であって、(イ)は編組織図、(ロ)は編地の断面図である。
【図2】別の実施形態に係る速乾性編地を示す編組織図である。
【図3】ポリエステルマルチフィラメント糸の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1…速乾性編地
2…表側編地
3…裏側編地
10…マルチフィラメント糸